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ほうれん草を食べると筋トレのパフォーマンスがアップ!
ほうれん草を食べると超人的なパワーを出すキャラクターといえば「ポパイ」です。
「ポパイ」は水夫のポパイと恋人のオリーブ、そしてポパイの天敵である大男ブルータスの3人が繰り広げる1930年代のコメディで、日本でも人気のアニメでした。
ポパイはほうれん草を食べると超人的なパワーを発揮します。これは、ほうれん草を食べない野菜嫌いな子供たちを引き合いに出したエピソードとされています。
このアニメのエピソードに対して、現代のスポーツ科学は、こう述べています。
「ほうれん草を食べるとパワーが高まる」
そこで注目されている栄養素が「硝酸塩」です。
硝酸塩はほうれん草をはじめレタスやチンゲンサイなどの緑葉野菜に多く含まれています。近年、エビデンスレベルの高いメタアナリシスなどの解析により、硝酸塩の摂取が筋力や筋持久力を向上させ、筋トレのパフォーマンスを高める可能性が示唆されているのです。
*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
◆ 硝酸塩の摂取が筋パワーを増大させるエビデンス
今回は、硝酸塩の摂取が筋力や筋持久力を高める最新エビデンスをご紹介しましょう。
運動能力やパフォーマンスを高めることが期待できる栄養素や食品のことを「エルゴジェニック・エイド」といいます。筋トレのパフォーマンスを向上させるエルゴジェニック・エイドにはクレアチンやカフェイン、ベータアラニンなどがあり、そのエビデンスも報告されています。
これらは加工したサプリメントとして摂取されることが多いのですが、近年では天然食品への関心が高まっています。そこで注目されているのが、ほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれる「硝酸塩」なのです。
硝酸塩の摂取によるエルゴジェニック効果として最初に検証されたのが「持久力」です。
硝酸塩の摂取による「筋力」への効果に対する検証が行われ、これらをまとめて解析したメタアナリシスが報告されるようになりました。
2021年、インディアナ大学のCogganらは、硝酸塩の摂取による筋パワーへの影響について検証した19の研究結果をもとにメタアナリシスを行いました。
対象は268名(男性218名、女性50名)として、硝酸塩の摂取による筋パワーへの効果を解析するとともに、サブグループ解析として年齢、性別、トレーニング方法による影響を解析しました。
その結果、硝酸塩の摂取は筋パワーを有意に増加させることが示され、その効果は単回摂取、5-6日間の複数回摂取ともに認められました。
さらに、このような硝酸塩による筋パワーの増強効果は、年齢、性別、単関節トレーニング(アイソレート)または複関節トレーニング(コンパウンド)などのトレーニング方法に関わらず示されました。
これらの結果から、硝酸塩の摂取は性別や年齢に関わらず「筋パワーを増強させる」ことが示唆されたのです。また、この増強効果は、効果量より最大筋力の5%の増加に相当すると推察されています。アスリートにとって、パフォーマンスが1%向上するだけで、勝利の確率が2倍になることが推定されていることからも、5%の筋力増強がアスリートにとって非常に大きなものであることがわかります(Hopkins WG, 1999)。
そして、筋パワーだけでなく、硝酸塩による筋力や筋持久力への効果も解析されています。
◆ 硝酸塩の摂取が筋力と筋持久力を増強させるエビデンス
2021年、リオデジャネイロ連邦大学のAlvaresらは、硝酸塩の摂取による筋力および筋持久力への影響について検証した34の研究結果をもとにメタアナリシスを行いました。
対象は18〜65歳の被験者であり、運動経験のないものからレクリエーションレベル、アスリートまでが含まれていました。硝酸塩の食品源はほうれん草やビートルート、調理したコラードグリーンなどで、1日当たり6.4〜26mmolの量の硝酸塩を1回ないしは複数回にわたり摂取されました。
これらの摂取による筋力、筋持久力についてまとめて解析を行い、また効果における摂取量や摂取頻度、トレーニング状況などの影響についてのサブグループ解析が行われました。
その結果、硝酸塩の摂取による筋力の増強効果は小さいが有意な効果が示され、筋持久力の向上は小〜中程度の有意な効果が示されました。
また、サブグループ解析では摂取量、摂取頻度(単回または複数回)、トレーニング状況に関わらず効果が期待できることが示されました。
これらの結果から、硝酸塩の単回または複数回の摂取は、アスリートであってもトレーニング経験がなくとも筋力や筋持久力を高める可能性が示唆されたのです。
Alvaresらは今回のメタアナリシスの結果は「硝酸塩の摂取が筋力および筋持久力をそれぞれ4%と12%向上させる」ことを意味しており、この割合は運動競技では無視できない効果であるとしています。しかしながら、解析のもととなる研究数は多くないこと、メカニズムが明確に理解されていないことから、結果を慎重に解釈する必要があると述べています。
◆まとめ 緑葉野菜を1日1皿分は食べよう!
硝酸塩の摂取は、カルシウムイオンの放出と感受性を高めることによって筋力や筋持久力を向上させる可能性が示唆されています。では、硝酸塩を含む野菜をどのくらい摂取すれば、このようなエルゴジェニック効果を得られるのでしょうか?
Alvaresらのメタアナリシスの結果では、硝酸塩を1日あたり「6.4〜26mmol」の摂取量により効果が認められており、2022年の最新のメタアナリシスでは1日あたり「5〜14.9mmol」の摂取量の摂取が運動パフォーマンスを向上させることが報告されています(Silva KVC, 2022)。
生のほうれん草200g(約1株)に含まれる硝酸塩はおおよそ24mmolであり、半分でも12mmolの硝酸塩を摂取することができます。40gのほうれん草と他の緑葉野菜を摂取して1日8.2mmolの硝酸塩を摂取した研究報告でも運動パフォーマンスの向上が認められています(Porcelli S, 2016)。
硝酸塩はほうれん草以外にもレタスやサラダ菜、ルッコラ、セロリ、パクチーなどにも多く含まれており、これらの緑葉野菜を含むサラダを「1日で1皿分」を食べるだけでもエルゴジェニック効果が期待できる可能性があるでしょう。筋トレ前の摂取であれば硝酸塩を多く含むビーツを使用したビートルートジュースの摂取も効果的です。
しかしながら、気をつけたいのが発がん性のリスクです。
硝酸塩の過剰摂取は、発がん性物質であるニトロソ化合物の生成に関与し、いくつかのがんの発症リスクと関連することが報告されております(Said Abasse K, 2022)。一方、他の報告では硝酸塩の摂取と発がん性に関連がないことも報告されており(McNally B, 2016)、現時点でも議論が続いています。
これに対して、FAO/WHO合同食品添加物専門家会合(JECFA)は、食物由来の硝酸塩のうちどのくらいの量が亜硝酸塩に転換するのかがはっきりとしていないことなどから、硝酸塩の摂取と発がんリスクとの間に関連があるという証拠にはならないとしています(農林水産省HP)。
ここからわかることは、筋トレのパフォーマンスを高めたいのであれば、緑葉野菜を過度に食べる必要はなく、「日々の食事で適度な量(1皿分程度)の緑葉野菜をしっかりと摂取する」ということです。
野菜の摂取は、心臓病による死亡のリスクや脳卒中の発症リスクも減少させ、血圧の低下との関連も報告されています。また、緑葉野菜にはダイエット効果があることがわかっており、減量における除脂肪の効果も期待できます。食べ過ぎる必要はありませんが、食べないことも問題になるのです。
『ダイエットするなら「やせる野菜と果物」を食べよう!』
筋トレというとタンパク質や炭水化物が注目され、野菜がおろそかになりがちです。日々の食事から緑葉野菜をしっかりと摂取し、筋肉に硝酸塩を貯めておくことがトレーニングのパフォーマンスの向上につながるでしょう。
ポパイはほうれん草を食べると超人的なパワーを発揮します。これは、ほうれん草を食べない野菜嫌いな子供たちではなく、私たちトレーニーに対するエピソードなのかもしれませんね。